今日の本
- ドストエフスキー『悪霊(下) (新潮文庫)』
- キリーロフとシャートフの会話.このキリーロフの口調に泣ける.
「キリーロフ! もしも・・・・・・もしもきみが,あの恐ろしい幻想をあきらめて,あの無神論的なうわごとを捨てることができたら・・・・・・ああ,きみはなんてすばらしい人間だろうなあ,キリーロフ!」
「どうやらきみは,スイスのことのあとでも,奥さんを愛しているようだね.それはいい,スイスのあとでもというのはいい.お茶が要るなら,また来たまえ.一晩じゅう,いつでもいい,ぼくは眠らないから.サモワールも出しておこう.1ルーブリも持っていきたまえ,さあ.じゃ,奥さんのところへ行ってきたまえ.ぼくはここで,きみやきみの奥さんのことを考えることにする」
「どうしてこの町の人や読者は本を装幀しないの?」
「それはだね,本を読むことと,それを製本に出すということは,人間の発達の異なった二段階,それも大きな二段階だからさ.人間はまず徐々に,本を読むことを習い覚える,もちろん,何世紀もかかってさ.ところが,本そのものはたいしたものじゃないと考えて,乱暴に扱ったままそこらにほうり出しておく.製本というものはもう本に対する尊敬を意味していてね,たんに本を読むのが好きになっただけじゃなく,それを一つの仕事と認めたことのしるしなのさ.ロシアはまだどこでもその段階にまで達していないね.ヨーロッパはもうだいぶ前から製本しているけど」