今日の本

藤原氏の正体 (新潮文庫)

藤原氏の正体 (新潮文庫)

 もう少しまともな歴史ミステリかと思ったのですけれど、論理的にむちゃくちゃでした。著者の中で結論は決まっていて、それにあうように文献を解釈しているに過ぎないです。もっとも、その結論部分のみは私も支持します。しかし、私が(あるいは一般的に読者が)知りたいのはストーリーであり論理です。そのために文芸として読むのですから。
 私が知りたいのは極論すれば結論ではなくプロセスです。歴史的事実が重要なのは言うまでもないが、それをわざわざ文芸本として読む必要はないと私は思うのです。結論をどんなに批判されていようとも、梅原猛丸谷才一の論を好んで読むのはそのためです。
 科学論文を読む際の意識も、もしかしたらこれと同じかもしれない。この論文の結論を自分の仕事、研究、あるいは医療に即時に役立てねばならない、という機会は最近は少なくなってきました。むしろ、その方法論をこそ吸収する必要があると思っています。今のポジションの特殊性もありますけれど。